Series 著作権のあるレシピ
【材料】
【作り方】
- 牛乳を人肌に温める。人肌の温もりを知らない人は、「大体こんなもんだろう」とイメージしながら温める。鍋でも電子レンジでもいいが、君自身の温もりで温めようとしてはならない。君にはまだそれだけの力はない。
- 卵を溶く。生命の尊さを噛み締めてもいいが、必ずしなければならないわけではない。生きているだけで、われわれは多くのものを喰らい、損ない、傷つけている。その度に失われたものに想いを馳せていては、心がいくつあっても足りない。
- 温まった牛乳に砂糖を入れ、溶けるまでよくかき混ぜる。温かさは融和を容易にする。それはきっと、物理現象に限った話ではないだろうが、その話は長くなるので別の機会に委ねる。
- 溶き卵も3.に入れかき混ぜる。ズボラな人は1〜3の工程をすっ飛ばしていきなりここから始めてもよい。正しい手順を踏むことはとても重要なことだが、それを面倒に思って諦めてしまうのは本末転倒だ。自分が許容できればいいじゃないか。そう気持ちを強く持ってひたすら掻き回すのもまた、ひとつの正しい生き方であると、私はそう信じている。
- 4.のプリン液を器に注ぐ。ココットでもいいし、マグカップでもいい。湯呑みやご飯茶碗でもいい。レンジで使用可能な耐熱性の器なら何だっていい。プリンを作るための理想的な器を探すことよりも、まずは作ってみることが重要なのだ。人間関係と同じことだ。接してみないことには、その人との相性はわからない。「この人とは絶対にやっていけない」と、そう思っていた人が一年後には無二の友人になっていることもある。プリンの器も同じだ。あなたは、あなたが選んだ牛乳と、あなたが選んだ卵と、あなたの家の電子レンジでプリンを作ろうとしている。その環境はあなた固有のもので、たとえ数値が一致していようと、私の環境とは異なっているのだ。でも、どうか恐れずに踏み出してほしい。もしも加熱が不十分でただのミルクセーキになってしまったとしても、あるいは加熱のしすぎで厚焼き玉子のようになってしまったとしても、その経験はきっと無駄にはならない。出会いと別れを経て人は豊かな心を涵養する。ミルクセーキや厚焼き玉子の先に、私たちの理想とするプリンは待っている。最初の一歩が間違っていたっていい。理想を心に抱きつつ、一歩一歩着実に踏みしめていれば、いつしか人は頑張らなくても前に進めるようになる。ところで、プリン液を注ぐ量は好みの量でいい。さまざまな大きさの器を使ったり、量をそれぞれの器で分けてみると、理想的な配分が見つけられるだろう。悲しいかな、正解を導き出すためには、犠牲も必要である。なお、この時に漉し器を使うとよいのだが、「そんなもん持っとらんわ」という人は気にせずそのまま注いでほしい。あ、違う、愛をではなくて、プリン液を。
- 広くて深い皿に水を張る。たぶんお湯でもいい。熱湯でもいいかもしれない。どうせ温めるのだから。そしてそこにプリン液の入った器を乗せる。
- 上からラップをする(HEY-YO とか言いながら韻を踏む方じゃない方のラップ)。鍋でプリンを作る場合は、水滴が器に入らないようにアルミホイルで蓋をするが、電子レンジでは絶対にアルミホイルを使ってはならない。火花が散り、家屋が赤々とした焔に包まれることになるだろう。なので、ラップだけかける。
- レンジで3分ほど加熱する(600Wの場合)。暇な人は電子レンジの中を見つめながら、プリン液がブクブクと煮え立たないように監視する。もしもブクブクし出したら、すぐに電子レンジを止める。プリンを作るとき、人はプリンの奴隷である。奴隷となることを拒否した場合、厚焼き玉子が出来上がっても文句を言う資格はない。
- 温め終わって、あまりにもまだ液体感が強ければ、追加で加熱する。20秒くらいずつ加熱を繰り返し、良きところで終了する。
- 粗熱を取ったあと、冷蔵庫で冷やす。ズボラな人はいきなり冷蔵庫にぶち込んでもいいが、周りの食材に悪影響を与えたり、冷蔵庫に負荷をかけ、電気代が嵩む可能性がある。自己責任でやってくれたまえ。
- 食す。ところどころ液体のままだったりする。時には完全に厚焼き玉子になっていることもある。プリンには、あなたの生き方が映し出される。
- そして、あなたの人生はまだ続いていく。